著者の本来の目的とは違うのかもしれませんが、この巡子の闘病とその周囲の人々の心理描写だけでも、人の生命の価値は十分伝わってくるのではないかと思いました。
ラスト近くでの巡子の言葉1つ1つの重さや、壮絶な闘病の描写は著者の筆力の賜物ですが、そこに子を宿した娘:美汐の出産への道のりが交差することで、「生命」の存在がより鮮烈なものとなり、読者により深く考えさせる結果となったと思います。
しかし今、生きている私は、もし私が遺族なら、亡くなった身内に関して聞きまわっている赤の他人は、小説に登場した多数の遺族同様、「ありがたい」よりも「不審者」としか考えられないと思います。それならドキュメントと見てはどうか、と考えても、あまりに実証性が弱いため(史料に拠ってはいるものの、その資料の信頼性については全く触れられていない)、ドキュメントにもなっていないという、とにかく中途半端でした(もちろんドキュメントである必要は全くありません)。
また、巡子の夫:慶彦の最後の方での言葉、行動は、涙を誘います。他の方も書いておられるように、あまりにも薄っぺらい表現、文章で残念です。だから悼む対象者について周囲に聞きまわり、嫌がられたら他へ行って同じことをまた続ける行為は、一見人のために見えても、奥底に「そうせずにはいられない」という自己中心的な考えがあるようにしか見えません。
あのドラマを見て、火坂さんの原作も同様のものとは思わないでいただきたいので、ぜひ気になった方は読んでみて下さい。事象の羅列が多く、兼続がどのように考えたか、景勝との主従を終世大切にした思いなど、人間性が深く掘り下げられるているところがなく、小説としての面白みが、残念ながらほとんどありません。
ただ、ドラマは原作よりもはるかにはるかに悲惨な状態ですので、よっぽど原作の方が楽しめますしすっきりできます。
出始めは静人への違和感が先に立っていたのですが、最後にこの巡子のくだりでしめていたためか、読後感は思ったよりよかったので、甘めで星4つとしました。
この著者の文章は1文ごと無駄がない印象がありますが、この静人のキャラクターは非常に受け入れにくいため、読み進めるのに苦心しました。新潟出身の作者が、自分しかいないと思って書いたという割には、本当に書きたかったのか疑いたくなる作品です。
その原因は、兼続という人間性を、ほとんどの場面で描けていないからではないでしょうか。まさしく私も、歴史教科書拡大版を読んでいるかのような思いになりました。
坂築静人が、そんな著者の考えを投影させたキャラクターであるのはわかります。。ドラマは脚本家が原作を無視して作った部分が多く、あのドラマのために原作の価値が必要以上に下げられるようなことがあるなら、原作者は気の毒ですね。大河ドラマの原作ということで、楽しみにして全巻読ませていただきましたが、評価は☆1つです。「人の死に軽重をつけることへのやるせなさ」から、あれこれ経てこの小説は生まれたという話を聞きました。
それは誰かの死を軽んじるという意味ではなく、やはり自分の身内や自分に近い人の死は、その他の人々の死よりも重く感じるのは人間として当然だと私は感じるからです。新装版は字も大きく、あっという間に3冊読めます。
だから静人が、自分を思ってくれる家族がいるのに連絡さえ入れないのは、重んじるべき肝心な人々の命を二の次にしている印象があり(たとえ心底どう思っていたとしても)、納得できません。
もし私が家族も親族もすでになく、誰からも看取られずに死にゆく者であるならば、悼んでもらえるだけでもありがたいことなのでしょう。ドラマで意味不明な存在とか出来事のほとんどは、原作では出てこないか、設定されていないか、勝手に作りかえられている、ということばかり(兼続自身が全く違う性格設定にされている)。ドラマに辟易した方は、こちらを読んで口直しをされてはいかがかと思います。
見ず知らずの人々の死を悼むことは、決して悪いとはいいません。速い方なら3日で十分ですので。
また、こう言うと語弊があるかもしれませんが、人の死に軽重をつけるなということ自体、私には無理です。
しかしそう言いながら星4つなのは、静人の母、巡子の末期がんの闘病の様子が非常に心を打たれたからです
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